ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア
here there and everywhere
1996 SM 板にアクリル
画家と小説家、二人の作家のコラボレーションが相乗効果を生み、互いの作品世界に更なる深みをもたらす、ということがあります。オスカー・ワイルドの「サロメ」におけるピアズリーの挿絵はよく知られているところですが、最近では天童荒太の「永遠の仔」の装丁における舟越桂の彫刻が見事に合致していたように思いました。何せ天童は舟越作品を最初からイメージして執筆したというのだから相性が良いのは当然ですね。
さて、学生の頃私は宮本輝の小説にどっぷりハマっていました。今思えば、バブル真っ只中の東京での「刹那的」生活の反動か、無意識に人の運命や生死を優しく見つめる氏の「普遍的」テーマを求めていたのかもしれません。そして当時の宮本の著作物の表紙にはほとんどすべて「有元利夫」という画家の絵が使われていたのです。
当時有元は四十歳を前にして夭逝した直後で、首都圏で毎年のように回顧展が開かれていました。氏の絵は、ルネサンス期の画風を日本画の顔料を使い表現しているのが大きな特徴です。(ちょうど今年、全国を巡回している「青木繁」が、西洋画材の油絵具を使い日本の神話を題材に描いている、その逆と言えますね。)回顧展の会場で本物の有元作品に対峙した私は、印刷では再現しきれないその画肌の剥落、劣化などの「時代」の表現に強い感動を覚え、貧乏学生ながらも五千円近い図録を迷わず(もちろん印刷物と承知の上で)買って帰ったのでした。
以来私は自分の表現の追及とは別に、異分野の表現とのコラボレーションの機会をうかがいながら日々制作しています。この絵はそんな思いから生まれたものの一つで、学生当時の感動そのまま十年後に描いた有元へのオマージュ作品です。
丹南高等学校 吉田直樹
(H23校長会誌表紙によせて)
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